フランスと日本、子育てにまつわるちがい 妊娠編

ところかわれば

森弘子

少し前ですが、今年1月に第一子をフランスで出産しました。友人から聞く日本での妊娠・出産・子育てとはやっぱりどこかちがうフランス。妊娠・出産・子育てを通して改めてちがいを比べると、それぞれの国柄もうっすらと見えてきます。そこで、数回にわたり「フランスと日本、子育てにまつわるちがい」と題して、私が気づいたことをご紹介していきたいと思います。

今回は妊娠編。
妊娠が発覚し、最初に医療機関を受診するのは日本もフランスも同じです。しかし、そのあとからすでにちがいが・・・

1.ちょっと面倒くさい分業制

フランスでは、総合病院の産科、個人の産婦人科、個人でオフィスを持っている助産師さんの中から選びランデヴー(予約)をとり、受診します。総合病院の産科を選ぶ場合、血液検査もエコー検査も全て同じ場所でできますが、個人の産婦人科や助産師さんを選ぶと話は異なります。フランスでは医療は専門分野によって細かく分かれている分業制です。個人の産婦人科では血液検査、エコー検査はしてくれません。血液検査はLaboratories(血液検査全般を行うラボ)に行き、エコー検査はエコー専門のクリニックに行く必要があります。これが予約をそれぞれで取らなければならなかったり、別日に行かなければならなくとっても面倒くさい。さらには個人の産婦人科や助産師さんの元では出産はできないので、出産もまた別に産院を選ぶ必要があります。

2.基本的に出産に関わる費用は無料

フランスの社会保障を受けられれば、基本的には出産に関わる費用は無料です。もちろん個人の日本語が話せる産婦人科の先生を受診したり、最新のエコー機器を導入している先生を受診すれば、社会保障でカバーされる額を越えるので、そのぶんは自ら支払いが必要になります。フランスでは妊娠期間中経過が良好であれば、担当医による検診は臨月まで月に一回です。社会保障でほとんどがカバーされるぶん、最低限必要な回数しか診ないというフランスならでは、の合理的な対応です。私は出産したのがパブリックの病院だったので、立替もせず、お金を一回も出さずに退院しました。

3.電車の座席だけでなくレジの列もゆずってくれる

フランスのメトロやバスには体の不自由な人や妊娠中の人のための優先席が日本と同様にあります。しかし、その席でなくても、妊婦さんが乗ってくると、パッと見つけて老若男女みんなが譲ってくれます。そしてそれは公共交通機関だけでなく、なんとスーパーのレジでも。大きなスーパーやデパートではレジが複数あり、そのうち一つは車椅子のマークが描かれている体の不自由な人優先のレジです。そのレジを妊婦さんも優先的に使えます。また、妊娠していると家まで買った品物を無料で送ってくれるサービスがある店舗もあります。さらにはフランスらしく美術館のエントランスのセキュリティチェックも、妊婦さんや子連れの場合は優先レーンを通ることができます。

ところかわれば フランス 子育て

大型スーパーのレジ。左の車椅子マーク付きのレジは妊婦さんや体の不自由な人が優先的に使える。車椅子の人に合わせた高さのカウンターがついている。譲ってくれた方にお礼を言うと「私もそうだったから」と返してくれたことがありました。

4.個人事業主でも産休・育休手当がある

現在フランスではauto-entrepreneurとして働いています。日本でいう個人事業主です。登録してみておどろいたのが、個人事業主でも産休・育休手当があること。日本では個人事業主が取得できる産休・育休の制度はありません。auto-entrepreneurであれば申請すれば、誰でも産休・育休手当を受け取ることができます。金額は企業勤めの人よりかは少ないですが、出産予定がauto-entrepreneurの登録の10ヶ月以降であれば、妊娠7ヶ月目と産後の2回に定額の手当を受けることができ、さらには休む日数を申告すれば、その日数分の日割りの手当も受け取ることができます。申請するには、妊娠届を提出した後に送られてくる冊子についている申請用紙に担当医のサインをもらい、送り返します。

ところかわれば フランス 子育て

妊娠届を提出するとこの冊子が送られてくる。医師のサインをもらい申請書を送ると登録した銀行口座に手当が振り込まれる。 過去3年の平均収入額が一定額に満たないと手当は通常の10%になるが、逆に言えば過去3年の平均収入が0でも10%はもらえる。

5.母子健康手帳をもらうのが産後

日本では妊娠がわかり、役所で妊娠届を提出すると母子健康手帳がもらえます。しかしフランスでは、妊娠がわかり妊娠届を提出しても手帳はもらえません。その代わりこどもが誕生すると「carne de santé(健康手帳)」をもらいます。生まれた瞬間にこどもに権利が発生するフランスらしいタイミングです。内容は日本の母子健康手帳とほぼ同じですが、出産前のお母さんの妊娠経過の情報が記載されていないところがちがいます。

ところかわれば フランス 子育て

サイズはA5。手帳は出産した病院で、出産に関わる情報が記載された状態で退院する時に手渡される。日本と同様定期検診の結果や体重曲線、接種したワクチンの情報が記入される。

ここにあげた以外にも、出生前診断がフランスでは義務であったり、妊娠期間の数え方が違ったりするなど、細かく見ていくとたくさんのちがいがあります。きめ細やかなサービスが期待できる日本、分業制で個人主義のフランスなど、妊娠にまつわる様々なシーンから日本とフランスの国柄のちがいを随所に感じることができました。